【短編読み物】『記憶の代償』

landscape

 

「ウホウホ」

霊長類Aは丘へ行った。霊長類Bに会った。
いつものように霊長類Bに惚れては求愛する。そしていつものように拒否される。

 

霊長類Aは他の個体より記憶力が悪い。
覚えていることといえば、丘に行けばなんだか素敵なことが起こるらしいことと、脇腹の古傷は以前に敵に襲われてできたものだと微かに覚えているくらいだ。

翌日になれば霊長類Bにフラれたことを忘れてしまい、また丘へ行って懲りずに恋をしてはアタックする。
それを毎日毎日繰り返していた。

 

ある日、霊長類Bが求愛に応じた。
霊長類Aよりちょっとだけ記憶力がいい霊長類Bは、来る日も来る日も自分のところにやってきてはめげずに求愛しつづける霊長類Aに次第に好意を持つようになっていたのだ。

霊長類Aは霊長類Bと結ばれた。幸せだった。人生で一番幸せだった。
しかし喜びの時も束の間、霊長類Bはその晩に食べた木の実の毒にあたって死んでしまった。

霊長類Aは目の前が真っ暗になった。
霊長類Aは焚き火もどきに使っていた木の棒を拾い上げた。その棒の火で自身の腕を焼いた。大声を上げ、気を失うまで焼いた。

自殺ではない。その霊長類には自殺という概念はなかった。

ただ、霊長類Aは忘れたくなかった。

悶絶するほどの痛みの記憶とともに、幸せの感情と悲しみの感情を覚えておきたかった。
腕のやけど痕とともに、霊長類Bの存在をいつまでも心の中に残しておきたかった。
焚き火もどきの近くで寝転がる霊長類A。脇腹の古傷がうずいた。

(終)

 

 

当記事は、以前自分が別サイトに書いた記事の移転になります。
別サイトでの公開日:2018/09/15

 

タイトルとURLをコピーしました