日本とハリウッドでは映画にかけるお金が桁外れに違います。
製作費がたくさんあるハリウッドはスケールが大きいです。
世界中から集まった才能で創り出すハリウッド映画は、SF・ファンタジー・アクション初め、いろいろなジャンルで世界の先頭に立っています。
そんな中で日本の映画も存在感が示せるジャンルがあって、その一つが日常系、特に「ほっこり系」の映画だと思っています。
日常を切り取って、そこにクスッとくる笑いや癒しや人間の機微を織り交ぜる。
そういった邦画の名作は、小津安二郎監督を筆頭に多く見受けられます。
アメリカ映画にも、大きな事件が起こらずして終わる平和な日常系の作品はあります。
が、アメリカは隠しきれないハッスル感があるというか。
英語からして「イエイ、イエイ」系の言語なので、ピースフルな感じはあっても「ほっこり」とはまた違うおもむきが感じられます。
こたつの中で丸まっている猫を見たときや緑茶をすすったときに感じるような「ほっこり」感は、日本の文化や日本人と親和性がある気がします。
ほっこりした雰囲気で有名どころの邦画といえば、『かもめ食堂』や『南極料理人』など。
『南極料理人』の監督は、「中高年女性グループ版南極料理人」ともいえるようなほっこり系作品も撮っています。
それが今回ブログに書く『滝を見にいく』です。(前置きが長くなりました)
それでは『滝を見にいく』の内容と感想を書いていきます。
さて。
『滝を見にいく』を鑑賞したキッカケから。
それはズバリ、タイトルに惹かれたからでした。
ジャケ買いならぬ、タイトル……何だ?
ネットフリックスの作品一覧を見ていてタイトルが気になり、あらすじを読んでみたら面白そうだったので鑑賞してみました。
結果、面白かったです。
派手さはなくとも、普通の主婦たちの、普通にそれぞれ違う個性にじわじわ引き込まれていきます。
内容としては、山中の滝を見に行くツアーに参加していた中高年女性7人が道に迷ってしまい、サバイバルをして山で一晩過ごす、という話になっています。
サバイバルといっても、弱肉強食やいばらの道的なハードな要素はありません。
「紅葉を見ながらの一泊二日の遭難」くらいのイベント的な勢いです。
多少の衝突はありますが、笑い声もたくさん出てなんだか皆で工夫しながら楽しそうでもあります。
道中、花冠を作ったり、ヘビを手づかみできる主婦がヘビを持って皆を追っかけまわしたり、ついには大縄跳びを始めるご一行。
そういえばこんな遊びもしていました。
草を一本摘んでもう一人が持っている草と交差させ、互いに引っ張って草が切れなかったほうが勝ちというゲーム。
「そういえば昔やったやった!」と懐かしくなりました。
まるで少女のようにキャッキャとはしゃぎながら少しずつ前に進む7人がなんとも微笑ましい。
ひとりひとり味があります。
それぞれの人間性とそのバックボーンが少しずつ見えていきます。
最初はちょっと痛い方向にズレているように思えた女性がその持ち前の明るさで潤滑油のような存在になっていったり。
平凡で控えめかと思われた主婦が実はたくましくて「ただ者ではない」評価を得たり。
気が強くてぶつかり合っていた二人がだんだん仲よくなっていったり。
そういう変化を追う楽しさもあります。
中高年女性のゆるいポジティブな雰囲気は、殺伐さに仕事をさせません。
監督である沖田修一氏はインタビューで以下のように語っていました。
「年配者の方々は、やる気はあるんですけど、何かをちょっとだけ諦めてるというか、達観してるというか。リラックスしてるから、撮っててたのしいんです。」
参考 映画「滝を見にいく」を見にいく。 – ほぼ日刊イトイ新聞
なるほど。
ネットフリックスのレビューでも「なるほど」と思えた記述がありました。
それは「おばちゃんは基本、丁寧に日常を生きていきたい」のだ、という一文。
たしかに登場人物の7人、大自然の中でも丁寧さがありました。
火をおこしてキノコを焼いて食べたりとか。
クルミや柿を拾って食事に彩りを添えたりとか。
川から汲んだ水を煮沸して、山中でほうじ茶を淹れたりとか。
何気にサバイバル術を駆使しながら、できる限り丁寧に「生活」しています。
中高年女性だからこそのゆったり感。まるで「ほっこりサバイバル」。
これが若い男性7人の話だったら、もっとハードな展開があたえられるでしょう。(それはそれで別の面白さがあります)
しかもそれがハリウッドの映画だったら、狼とか熊とかチェーンソー持った狂人とか雪男とかエイリアンとかまで出てきて生き残りをかけたパニック攻防戦にまで発展するかもしれません。
中高年男性7人の場合もしかり。
軍隊並のサバイバル術や銃などが繰り出されて静かな山が一転戦場と化し、最終的に妻と娘が待つ主人公がボロボロになりながらも生還する、みたいな、アクション&感動巨編になるかもしれません。
しかし『滝を見にいく』の舞台は日本。そして登場人物は中高年女性。なんともほのぼのした雰囲気です。
バトルどころか皆で太極拳に興じたりします。
作中の一番のブチ切れポイントが「3万円も出したんだから、何がなんでも温泉だけには入ってやる!!」でしたし。
野宿の最中に昔の歌謡曲を皆で歌っては、「何これ」とおかしくなって笑い合ったり。
シリアスな状況に対して、いい意味での「ズレ」を持っています。
そういったズレた行動をするにしても、「脚本にやらされている」感がなくて、女性たちが自発的にやってそうな感じがあるので、こっちもほっこり観ていられます。
ほっこり系映画の中には、独特の雰囲気を演出するためにシュールが過ぎたり、漫画的な動き(非現実的なテンポや言動)になっていたりするのもあって、それだと観ている側に置いてけぼり感をあたえてしまいかねます。
ほっこり系映画は「日常」がベース。日常を感じる素朴なリアルさが欲しいです。
『滝を見にいく』の作品の中には素朴なリアルがあります。
「こういうキャラの人いそう」「こういうこと仕出かしそう」みたいな共感があります。
一つ一つの行動や仕草は些細なんですけどそういうところに人間味が滲んでいたりして、モニタリングのような人間観察に似た楽しみ方で観客はこの作品を観ていたりするのかもしれないなあ、などと思いました。
映画を観る良さの一つとして、「人生の予行演習になる」といわれることがあります。
まさに『滝を見にいく』を観ていると「自分も初対面の人たちと集団で遭難したらどういう行動をとるだろう?」と考えたりしますし、いつ訪れるかわからない遭難に対して多少なりとも心構えができるかもしれません。
何気に野宿の仕方や簡易的な杖の作り方などを学べますし。
遭難のプチ予行演習をしながら、味わいある登場人物とシンプルなストーリーをたのしむ、そんな至って平和な映画です。
たまにこういうほっこり映画を観るのもいいものです。
私はこの映画を観て、なんだか滝を見に行きたくなりました。