かつて北海道の片田舎で、ヒグマに襲われて8人が亡くなるという事件がありました。
三毛別羆事件といいます。さんけべつひぐまじけん と読みます。
1915年に北海道で起きた史上最悪の熊事件です。
8名の死者が出た三毛別羆事件
私は当初、この事件についてまったく知りませんでした。
三毛別という地名自体、聞いたことがなかった。
ふとしたきっかけで、およそ100年前の日本におそろしい熊事件があったことを知りました。
この事件、ヒグマの襲撃によって8名(※)の死者が出ました。
(※そのうちの一人はヒグマに襲われてから2年8ヶ月後に死亡したので、彼を抜かした7名を死者数とすることもあります。)
事件の詳細が知りたくて、三毛別事件について詳しく書かれた本を購入しました。
その本は、木村盛武著「慟哭の谷 北海道三毛別・史上最悪のヒグマ襲撃事件」(文春文庫)です。(単行本としては「慟哭の谷―The devil’s valley」(共同文化社)というタイトルで1994年に出版)
林務官だった木村氏が取材をし、忘れかけられていたこの史上最悪の熊事件を文章にまとめて世間に発表しました。
事件の大筋はウィキペディアで把握できますが、ウィキペディアだけでは知ることができなかったヒグマの足取りが図で説明されたりしていてわかりやすい本です。
また、ヒグマが最初に現れてから退治するまでの一連の経過が物語のように描かれていて、ヒグマが人間を食する時の音なんかも表現されていて、より事件を臨場感たっぷりに感じることができます。
ヒグマの恐ろしさが手に取るようにわかる、熊事件のバイブルといえる本です。
と、本のススメはここまでにして羆事件についてです。
100年前の片田舎で突如ヒグマに襲われ、そして不自由な環境下でヒグマに容赦なく追い詰められていくという、そんな絶望的な事件でした。
じっくりとそのときの状況を想像してみても、その恐怖は計り知れないものがある。
巨人のようなヒグマに不自由な環境下で追い詰められていく
まず、ヒグマについての情報を書いておきます。
三毛別に現れたヒグマは、体長2.7m、体重340kg。
人間より遥かに大きい巨人みたいな存在です。
このヒグマが、数日間に渡って現れては消えたりする。
この三毛別のヒグマは、冬眠し損ねて機嫌が悪かった。
民家を襲うばかりか人をも攻撃し、さらには人を食うことを覚えました。
三毛別のヒグマは馬に対しては関心を示さず、馬をまったく攻撃しませんでした。
人間に執着し、狙ってくるのです。
当時の住民たちが置かれていた環境や文明レベルというものは、本当に現代からすれば不便であるし、不利だった。
電話など通信手段がなく、電気・電化製品がないから日中しか自由に動けず、昼夜限らずいつやってくるかわからない熊におびえるという。そんな状況でした。
そんな状況は想像しただけで寒気がするようである……。
ヒグマを退治するには銃で撃ち殺すしかない状態でした。
結局「サバサキの兄」と呼ばれていた山本兵吉氏がヒグマの心臓付近と頭部に弾を命中させて討ち取ることができました。
ですが、それまでに何度かヒグマを取り逃がし、ヒグマに運が味方してるんじゃないかというくらい、人間たちが追い詰められていました。
ヒグマを仕留めたサバサキの兄について
ちなみに。三毛別のヒグマを仕留めた山本兵吉氏ですが。
彼は若い頃、樺太にて熊をサバサキ包丁で刺し殺したことがあるそうです。
彼が生涯に捕った熊の数は300頭を超えたとかなんとか。
酒好きで、常に軍帽を被って、年がら年中猟銃を持って山野を駆け巡っていたという、なんともキャラ立ちしているマタギさんであります。
彼が主人公になっている(名は銀四郎になっている)、三毛別事件を小説化した「羆嵐」(吉村昭著・新潮文庫)という本も出版されています。
三毛別に現れたヒグマのこわさ
前述したとおり、三毛別のヒグマは数日間に渡って現れては消え、人間を襲い・時には食い殺し、住民を恐怖の底へ陥れました。
熊はもともとこわい存在ですが、このときの熊は特別こわい個体です。
一度襲った民家や女性物の衣服や湯たんぽの石に執着を示すなど、異様な性質も垣間見えました。
噛み殺した女性の死体を地面に埋めていたというエピソードもあり、ゾッとします。
これらの性質はヒグマ全般に当てはまることなんでしょうか?
潜在的にそんな性質を秘めているとしたら怖すぎる。
それとも、たまたまそのヒグマがサイコパスみたいな資質を持っていただけでしょうか。
熊やライオンにサイコパスがいるとしたら、それはそれでおそろしすぎる。
本の中で三毛別のヒグマを「魔獣」と表現していましたが、まさにですね。
そんな魔獣に襲われてしまった、悲惨な三毛別の事件。
こういった事件に遭遇してしまうことは、今の時代だってあり得ること。
田舎での熊の目撃情報なんて普通にあります。
熊のおそろしさを忘れてしまわないよう、そしてできれば山へ行くときなどの事前準備や心構えをいつでも徹底的にできるよう、この三毛別羆事件は広く知られるべきだと思います。
最後に:熊映画『デンデラ』
この事件について知った当時、数人の知人にこの事件を知っているかどうか尋ねました。
知っている人はゼロでした。なんせ長いあいだに忘れかけられていた事件だったので。
これこれこういう事件だったんだと話すと、「映画『デンデラ』みたいだ」という人が二人ほどいました。
わたしは『デンデラ』を知らなく、ストーリーを聞く限り古い映画なのかなと思ったら、2011年公開の映画でした。
ウィキペディアのデンデラのページには、吉村昭の『羆嵐』のパロディの要素を持っているという記述がありました。
ああ。であればリンクするのも自然なことかな。
映画『デンデラ』、観てみたい。
2017年1月15日追記
映画『デンデラ』観ました。たしかに熊映画でした。