おととし2016年に『君の名は。』がヒットしたときに、タイムスリップ系の作品について挙げてみる機会が個人的にありました。
それ系の映画はたくさんあり、漫画でもいろいろおもしろい作品はあって
『ふしぎ遊戯』や『天は赤い河のほとり』、『テルマエ・ロマエ』『信長協奏曲』も時空超える系だな
などと思っているさなか
「あれ? あの漫画なんだったっけ?」
「弁慶とか出てきて、現代と中世を行き来する少女マンガ」
と、一つ記憶があいまいな作品を思い出しました。
すぐには題名を思い出せず
調べてみて、上田倫子さん作の『リョウ』であることがわかりました。
『リョウ』は、たしか高校生だったときに友達から借りて読みました。
友達のお気に入りの漫画でした。
源義経=女性の設定で展開される、歴史ファンタジー恋愛マンガです。
現代の女子高生が平安時代にタイムスリップして、実は自分は源義経だったと知って、そこから平氏を打ち滅ぼすために弁慶はじめ従者たちと奮闘していきます。
私は当時読んだときはハマるところまではいかなかったのですが、ところどころのシーンがけっこう後まで印象に残りました。
主人公が相思相愛の相手(弁慶)に、「別の男性(平維盛)を愛してる」と涙ながらに本音を告げるシーンとか。
その維盛がりょうに会いに川か湖かを半濡れで渡ってくるちょっとホラーチックなシーンとか。
女子中高生向けの一般的な爽やか青春恋愛漫画とはちょっと一線を画していました。
それでもってこのあいだ京都国際マンガミュージアムを訪れたときに、たくさん漫画が本棚に並んでいる中に『リョウ』を発見しました。
数巻をパラパラとめくってみました。
ストーリーとかキャラとかほとんど忘れていたので、パラパラ見ただけでは内容は入ってこず。
帰ってからも気になり、ネットで『リョウ』のあらすじを検索してみました。
あらすじ、というかネタバレを読み、確信しました。
「これ、絶対好きなテイストのマンガだ!」と。
今読んだら絶対好きになるだろう予感がありました。
本編を読みたくてたまらなくなって、すぐに全巻購入しました。
そして全巻読み終えました。
やっぱり好きなテイストでしたし、おもしろい作品でした。
ギャグ的にもおもしろくもあり、歴史の捉え方など興味深いという意味でもおもしろいです。
ストーリーよし、キャラクターたち魅力的、絵が美しくて、少女マンガの名作の一つだと思います。
ストーリー、キャラクター、絵のよさについてもうちょっとこまかに書いていきます。
ストーリーよし
『リョウ』には、義経、弁慶、頼朝etc… 実際に存在した人物が出てきます。
なので基本は史実に沿っていますが、あくまで「基本は」です。
実際の義経の足取りを追ったり、実際に起きた事件が起こったりしますが、作中にはオリジナル要素が満載です。
巧みに歴史の穴埋め・アレンジがされてあります。
『リョウ』は『リョウ』の物語としてすごく世界観に入り込めます。
史実では義経は、兄の頼朝のうらみを買い、頼朝に追われる形で31歳で亡くなります。
『リョウ』では頼朝はすごく人好きのしそうな男前兄貴キャラで登場し、頼朝と義経のきょうだい仲もとても良好に描かれていたので、果たしてどのように亀裂が入るのかと思いましたが。
なるほど。そういう展開でくるとは! と、思いました。
義経が女性だったらという設定ならではともいえる。
ネタバレになるので詳細はここでは書きませんが、頼朝が義経に執着するという意味では、なるほどたしかに納得する理由でストーリーが展開されているな、と思いました。
そして現代の日本にタイムスリップするファンタジー要素も加えられていて、物語がさらに彩られていきます。
私は先にネタバレを読んでたのでラストの展開はわかっていたのですが、それでも最後は真剣になって涙しながら読みました。
ラストに関しては、「あら、ここにきて海尊が?」と思う流れでもありました。
りょうの従者の一人ではあるもそれほど存在感を誇っていたわけではなかった海尊が、なぜラストに「あの世界」へ行ったのか? 多少疑問はありました。
Wikipediaの常陸坊海尊のページを見てみたら、以下のようなことが書かれてありました。
“不老不死の身となり、あるいは400年くらい生きたとも言われており……”
はあ! なるほど!
これは……「あの世界」へ行ったことともどことなくつながりを感じさせるような!
と、心に感じ入りました。
実際の人物の伝説と絡めてくれるとすごく情緒深い気持ちになります。
『リョウ』はおもしろい中に情緒深くて心揺さぶる場面があります。
ストーリーだけでも惹きつけられる作品です。
キャラクターたち魅力的
『リョウ』はストーリーもさることながら、漫画に出てくる登場人物たちもとても魅力的です。
特に初期のショートヘアーりょうは、ボーイッシュで勇ましくて凛としてて好きです。
女性陣は、美しい・可愛い人たちが多くて眼福。強さもありますし。
男性陣も、弁慶、維盛、葵、頼朝、海尊、木曾義仲、瑠璃など、いろんなタイプの男性が魅力的に描かれています。
幼い三郎はすごくかわいかった。
ただ、現代からきた催眠術づかいの医者はにくたらしかった。というか、銃を持ってたりして異種感がありました。ドラゴンボールでいうセル(以降)編に突入したような異種感でした。
上記は比較的若手メンツですが、後白河法皇や、頼朝の腹心の部下である梶原景時、弁慶の父親の湛増様、などなど、年輩の殿方たちも本当に個性豊かな面々が登場しました。
こんなにもいろいろな男性を魅力的に描けるのはすごいです。
また、『リョウ』の登場人物は、善悪の白黒でいうところの白だけじゃない部分を持ってるキャラたちが多く、そこが激動の世界観と合っていてよかったです。
白黒のみではないグラデーションの部分があると、人間らしく、よりキャラに深まりが出ますね。
ちなみに後白河法皇が登場したときに、どこかで見たことがあると思った顔立ち(絵)だったのですが、それが何だったかは思い出せません。実際のご本人の肖像画ではないようだし。だれに似てるんだろう。ちょっと気になります。
絵はうつくし
『リョウ』は、物語の舞台である雅な平安の雰囲気から浮くことなく、うつくしい絵で描かれています。
鎧とか十二単とかさらりと描かれているけれども、ずいぶん取材したり資料を取り寄せたりして苦労して描かれたのではないでしょうか。しっかりきれいに描かれています。
人物の表情も、ハッとするようなうつくしさがたまに現れたりします。
牛若の人格が表に出てきたときのりょうとか凄まじく凛々しくて、静御前が見惚れてしまうのもうなずけます。
あとは絵についていうと、作者さん、脚を描くのがすごくお上手だと思いました。
りょうの脚は余計な筋肉がついてるわけでなくすらっとしてしなやかな感じがするきれいな脚をしていました。
三郎など幼い子供の脚は、とっても「っぽく」描かれていて、すごくうまい。
全体的に絵がきれいで人物のバランスがよいのかと思います。
バランスのよさは、弁慶とりょうが接近したときの顔の大きさのちがいにもあらわれていました。
作品内では202cmある弁慶。顔も大きいのが自然でしょう。そこをちゃんと描いてあるのがよかったです。
少女マンガは別にきれいな絵でなければならないなんてことはないのですが、『リョウ』に関してはきれいな絵が作品をより盛り上げていますね。
終はりに
以上、『リョウ』を読んだ感想と素晴らしいと思った点などをつらつらと書きました。
『リョウ』の読後に、「いい漫画を読んだ!」という満足感がありました。
再会できてよかったです。
時が経って改めて作品を鑑賞してみたら以前とはちがった印象を持った……なんてことはままあります。
昔の自分と今の自分との物事の受け取り方のちがいを教えてくれるのも、漫画や映画や小説が教えてくれることの一つかもしれませんね。