エッセイ:「出前の寿司のネタ食う順番」

エッセイ
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~故・伊丹十三監督風の文体(というよりは語尾)で書いてみるエッセイあるいはコラムのようなもの~

 

私が実家に住んでいた頃、誕生日や祝い事のときには町の寿司屋から出前をとっていた。

一時期、いちばん好きな食べ物として私は寿司を挙げていた。今でも寿司は大好きである。
寿司好きになったのも、この寿司屋の出前があったからだと、そういえるくらいに今思い返せば旨い寿司であった。

さて、その寿司屋の評判はどうだったかといえば、私がかつて勤めていた会社にとある還暦近くの上司がおり、この上司は作家先生の弟さんで美味しいものも結構知っておられるかたであったが、この人をして「一番うまい寿司屋」だと言わしめたほどである。ああ、「日本一うまい」とさえおっしゃっていた。
その上司がどれだけ寿司を食べ歩いたことがあるのかは知らぬが、ともあれ「日本一うまい」と言いたくなるほどにはお気に入りのようであった。

高級寿司屋というわけではまったくなく、どちらかといえば至って庶民的な町の寿司屋でしたが。
おいしさには定評がある寿司屋ということで一つお考えください。

 

さて、その寿司屋から取っていた出前寿司は、いわゆるオードブルのような大皿に並んでいるもの……ではなかった。一人前ずつ寿司桶にネタが並んでるのが家族の人数分くる、というスタイルであった。

漆塗りの丸い寿司桶に並べられた握り寿司は、見るだけで気分をよくさせてくれる。

寿司桶が縦に人数分ドンドンドンドンと重ねられては、最上段の寿司桶のサランラップの上に、人数分の割り箸とインスタントのお吸いもののパックが添えられていた。

お吸いもののパックには浮世絵のような絵が描かれている。そのパックを開封して、粉末をサラサラと汁椀に入れ、熱湯を注いでかき混ぜて出来上がり。このお吸いものがまた寿司と合うのである。

 
↓こういう絵柄のパックであった

東洋スープの「和風お吸いもの」イラスト

 

いざ実食の段となるが、ここで個人の差が出てくるのが寿司ネタの食べる順番である。
ひとつの大皿を皆で囲むスタイルであれば早い者勝ちになるので好きなネタから食べていきますが、すでに一人前に盛り付けられてあるのがでんと自分の前にくるとなれば、自分の好きなペースでネタを食べ進められる。私は出前寿司はもっぱら好きなネタを後に残す派でした。

 

私はまずは必ず玉子の握りから。玉子は私にとっては嫌いではないが好きなネタでもなかった。
玉子の出来によってその店のよしあしがわかるなんてツウもいるようだが、私はわからず、なんなら玉子はわざわざ寿司にせんでもいいくらいの考えでありましたので、まあ未熟な舌であった私は玉子の握りはツウとは違った理由で最初に食べていた。

玉子の次は穴子である。私は穴子は得意ではなかった。
いきなり穴子から食べ始めるのはなんだか口への刺激が強めでありますので、まずは玉子で口の中をならした後に穴子、という順番か、あるいは穴子は家族にあげていた。

次は数の子の握りを食べるが、食べる以外にあるいは数の子の握りは家族にあげていた。あげてばかりいたら食べられるネタが減ってしまうとなりますが、そこはせっかくの旨い寿司、タダではあげぬ。ほかの家族が苦手としているネタなんかと物々交換をしておりました。

しかしこうやって食べる順番を書いてみれば、はからずも玉子、穴子、数の子、と、「子」がつくものを序盤で食べる形になっていますね。

 

さて、次は甲殻類や貝類をいただきます。
イカ、エビなどをいただきます。

出前の寿司桶には握りのほか、端のほうに細巻きのかっぱ巻きや鉄火巻きの切られてるのが2個ずつ、4個並んでいたのですが、そうですね、この細巻きに関しては、序盤から中盤にかけて、握りのあいだに挟み込んで食べます。

 

そしてここからが私にとっての大物ゾーンでありいわば終盤、イクラ、ウニ、かんぱち(だったと思う白身魚の握り)、中トロ、の順番で箸を進めます。
ウニとかんぱちの順番は、ウニの状態によっては逆になります。きれいで新鮮なウニの場合はトリのほうに取っておいてから食べます。

大トリは中トロである。私の中で大トリは中トロと決まっていたのであります。これは固定であった。
クセのない、ほどよい脂の旨みを、口の中に余韻を残す形で寿司をフィニッシュさせたいものがあったのかもしれない。

 

これで完食。満足である。
時期によって寿司ネタに若干の変動はあるものの、このようなネタのラインナップであった。
今思い返してみてもあの寿司は旨かった。
この寿司の味をもう一度……、と思っても現時点では叶わぬことである。

その寿司屋は宮城県の海の近くで、震災の被害に遭われた。お店が流されてしまい、そこからその寿司屋は再開されておられない。

思い出の寿司をこの先再び食べられる日がくるかどうかはわからぬが、またいつか食べられる機会があったときには、私は昔と同じ順番で食べていそうである。

 

 

当記事は、以前自分が別サイトに書いた記事の移転になります。
別サイトでの公開日:2019/10/31

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Saeka Kadomatsu
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この記事を書いた人
門松冴果

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映画と文(ぶん)が好きな物書きです。小説を書いています。

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