エッセイ:社長からの突然の手紙

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~故・伊丹十三監督風の文体(というよりは語尾)で書いてみるエッセイあるいはコラムのようなもの~

 

私が新卒で入社した会社でのエピソードである。
先にいっておけば、いい話でもなんでもないエピソードであります。

 

入社し2か月くらいだったか新人も新人であるときに、突然勤め先の社長から手紙を渡されたことがあった。
手書きの手紙であった。

社長は当時40代後半か50代前半であったろうか。

社長はなんでも、豪族かそれらしきものの一族であるらしく、伊達家にゆかりのある家系だったか、あるいはもしかしたら奥州藤原のほうの家系だったか、その辺はっきりとは覚えておりませんが、とにかく全国的にも有名な一族の子孫かそれに類するものだったらしい。

社長はわりと強面だったが、しゃべり方はソフトな、それでいて話すとなかなかにエンドレスな、そんな男性であった。

 

社長が入社して間もない私に直々に手紙をよこすとはどういった了見なのか。

その手紙を読んでみた。
「なんじゃこりゃ?」と思いましたね、私は。

 

社長は先にも話しましたように有名な豪族の関係者であったようですが、実はその豪族にまつわることで一つ、伝えられている史実とはまったくちがう真実が存在するというのです。それを社長は知ってしまったというのです。

『私はとある重大な秘密を知ってしまったのだ・・・!』

『私は、知ってしまった・・・!』

史実を揺るがすかもしれぬ重大な秘密の存在と、それを知った社長本人の苦悩のようなものが、情感をなかなかに込められながら結構長めの文章で、手紙につづられていたのであります。

このような手紙を受け取ったのは初めてであったし、このような手紙を部下に書いてよこす人もおられるのだなという気持ちです。

当の重大な秘密についての詳細はまったく書き記されていなかった。
ミステリーのように掻き立てておきながら核は教えてはくれぬ、と。

とりあえず、重大な秘密の内容を他人には口外できぬが、知った事実を抱えきれずに誰かにその状況を吐露せずにはおられなかったのではあるまいか。そう考えます。

 

なぜ私にそれを報告したのだろう、しかも手紙で、などとこちらとしては思うわけですが、付き合いの短い新入社員だからこそ言いやすかったのはありそうだ。まったく知らぬ者ではあらずとも距離のある関係性だからこその気安さというのか。そして手紙にしたのは、誰かに話したくはあっても質問や突っ込まれることはされたくなかったのではないかと思いますが、しかしながらああいった手紙を若手社員に書いて渡せる社長でしたので、私の想像の範囲を超えた考えがあられるのかもしれなかった。

 

と、そんなこともありました、以前の会社。

なかなかに変わった社長であった。
ミーティングのときもアナログのノートにメモしておられたし、「書く」のが好きな社長ではあった。そして話すこと自体も好きな社長であった。手紙なりなんなりアウトプットせずにはいられない性質でおられるのかもしれない。

ちなみにその重大な秘密とやらに触れることはないまま私はその会社を退職した。
重大な秘密とやらはついぞ知らぬままなのであります。

 

 

当記事は、以前自分が別サイトに書いた記事の移転になります。
別サイトでの公開日:2019/10/24

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Saeka Kadomatsu
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この記事を書いた人
門松冴果

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映画と文(ぶん)が好きな物書きです。小説を書いています。

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