エッセイ:練習は本番のように、本番は練習のように

エッセイ
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~故・伊丹十三監督風の文体(というよりは語尾)で書いてみるエッセイあるいはコラムのようなもの~

 

私が小学校高学年のとき、町おこしの一環として高学年全員でミュージカルを公演するという機会があった。

演出や音楽はプロが担当。私たちは贅沢にもプロから指導を受けたのですね。
テレビ局や新聞社も何度か取材にくるという、なかなかに大きなプロジェクトであった。

 

本番となる公演は1回のみだが、その分、大人の力や予算がその1回の大舞台に集結されていた。
準備や練習には1年くらい使ったろうか。
田舎の小学生の自分たちからすれば、ほぼ全員が生まれて初めての大舞台であった。

とはいえ子供だった自分たちは、当初はその規模や事の重大性がどんなものかイマイチわかっていなかったのであります。
ミュージカル公演は大人たちが企画したもの。決してミュージカルをやりたくて集まった集団にあらず。
ギラギラした熱意はなく、ミュージカルの練習も決められているからやるという側面もあり、町おこしやらビジネスやらプライドやら責任やら色んな要素が複雑に絡んだ大人たちのほうが、ミュージカル成功にかける想いが強かったはずです。
しかしやるからにはいい物を作り上げたいというのが生徒たちの総意だったと理解している。

 

公演本番までには紆余曲折あった。

練習中に、とある講師がふざけている男子集団に怒りを爆発させたことがあった。大声を張り上げて自身のシューズを床に投げつけるという感情むき出しの叱り方をした。

その叱り方に生徒は反感を持ち、練習ボイコット、校庭の土にミュージカル反対の意思をでかでかと書き記すストライキ、ミュージカル続行かやめるかのクラス会議、……を経て講師との和解、ミュージカル継続。
という、それなりのドラマがあったが、ドラマ部分は省略します。

 

簡単ではない年頃の小学生たちをミュージカル成功に向けてまとめなければならない。教師はじめ大人たちは四苦八苦したろう。

技術面から精神面まで、いろいろと私たち生徒にアドバイスをしたはずだ、きっと。
一つだけ、今でもはっきりと思い出せる教えがある。

当時の、学年主任という役職自体はなかったが実質そういった存在ではあった、声が大きく強面そのままに怖い先生が、いつかのミーティングで言っていた言葉だ。

「練習は本番のようにやれ。本番は練習のようにやれ」

当時この言葉を聞いたときに、納得!とまではいかなかったものの、何か感じるものはあった。

 

家に帰って親にこの言葉を話した。
親は「なるほど」と感心している様子であった。

大人と呼ばれる年齢になった今、私も「なるほど」と思う。
次のような理屈があるだろう。

・練習は緊張感を持って、本番は肩の力を抜いたなかで集中力を持って。
・本番で余計な力を入れずに集中するには「やってきた」自覚・自信が必要。
・本番で体が自然と動くよう、いつも真剣に練習に取り組むことが大事。

そんなことを小学生の時分に理詰めで説明されてもサーっと流れていただけだ。
「練習は本番のようにやれ。本番は練習のようにやれ」
シンプルな言葉だったからこそ、小学生の心にもストンと入ってきたのであった。

当時は深い解釈こそできなかったものの、とにかくその言葉は今でもはっきり思い出せるほどなので、もちろん当時も頭の中に存在していたはずの中で、ミュージカルの練習に励んだのであった。

 

ミュージカル本番は大成功だった。
それは生徒たちにも確かな手ごたえがあった。

観客の大人たちの多くが涙していたというのを聞いて、そんなに泣けるストーリーでもないような?と当時の私たちは不思議に思ったものだが、大人たちはストーリーに涙を流していたわけではないことに成長してから気づいた。というこぼれ話も出たりするわけです。

 

『練習は本番のようにやれ。本番は練習のようにやれ』

今でもごくたまにこの言葉を思い出す。

何も難しい単語を使っていない。小難しい言い回しもしていない。
なんなら小学生にだって言えるセリフです。

しかしこの言葉を自分の言葉として吐き出すには、似たような経験や学びがなければ出てこなかったと思うので、やはりこれは経験を重ねた大人のセリフかなと思います。

そして言葉の中にある深みや理屈を「わかってもらおう」とこねこね説明せず、シンプルに私たちにアウトプットして「感覚でわからせた」あの先生に、今になってあのとき小学生だった私は「ほほう」と少し思いを馳せるのである。

 

 

当記事は、以前自分が別サイトに書いた記事の移転になります。
別サイトでの公開日:2019/10/21

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Saeka Kadomatsu
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この記事を書いた人
門松冴果

Saeka Kadomatsu
映画と文(ぶん)が好きな物書きです。小説を書いています。

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