エッセイ:ボイトレ体験で得た教訓

のど飴 エッセイ
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~故・伊丹十三監督風の文体(というよりは語尾)で書いてみるエッセイあるいはコラムのようなもの~

 

以前、いくつかのボイストレーニングの体験レッスンに行ってみたことがあった。

講師によって指導の仕方はまちまちな中、とある教室で教えてくれた先生の教えが私の心に残った。
そのときの話。

 

体験レッスンが始まった。
先生の指示で腹式呼吸をした後に「ラーラー……」と発声練習をおこなった。

どうも喉声になって喉に負担がかかっている感じになってる私。
そんな私に先生はこんなアドバイスをくれた。

「自分の声を確認しながら発声するのではなくて、出しきりなさい。声は出たがっているのに、自分で声を聞きながらおさえとどめてるような感じになってて、それが喉で摩擦になって喉に負担がかかったり痛くなったりするんだよ。自分で聞くんじゃなく、ただ遠くの人へ聞かせるだけでいい」
といった内容のアドバイスであった。

これは目からウロコだった。
そのような視点でアドバイスをもらったのは初めてだった。

 

喉声になってしまって声が大きく通らなかったのは、主に自分で出してる声に気をとられて、自分で押しとどめていたからであると気づいた。

自分の声を聞きながら歌っていると、自分の周囲だけに歌がこもってしまうのであります。

 

次にメロディを歌いながらの発声練習をおこなった。「ドーミーソーミードー」みたいなやつだ。

先生のアドバイス通りに、声を出したらそのつど確認せず遠くへ声を届けるようただ放出するように声を出した。
そしたら劇的に改善した。

まるで自分の声帯やら腹筋やらをとっかえたみたいに、すごく大きくてよく通る声が教室いっぱいに響いた。

キーをどんどん上げていってもどこまでも出る。
先生も自分も気分が高揚して本当にそのときの熱量はすごいものだった。

しかしある時点までいったときに変化が起きた。
ふと自分の中で現実に引き戻されたような、オペラ歌手のように声を出している自分を恥ずかしく感じるような瞬間があった。
その瞬間、正直なものだ、声がきちんと出なくなり、「外れて」しまった。

そこで発声練習は終了した。
発声練習の直後、自分の目にうっすらと涙が浮かんでいた。何かを出しきったときの身体的反応といいますか、デトックス効果ですね。

あのとき最後まで「さめずに」発声練習をつづけていたらどこまで高いキーにいけていたのだろうか、と惜しくも思うわけです。

 

ボイトレ体験から一週間後に、まったく別の場所で早口言葉を言ってみる機会があった。

ふとボイトレの先生の言葉を思い出し、自分の声を聞かない・気にしないようにして、とにかく先へ進んでいこうとする気持ちで早口言葉を言ってみた。
すると早口言葉が上手になってスラスラッとちゃんと言えることに気づいた。歌と同じだった。先生のアドバイスは早口言葉にも有効的だった。

 

歌ったり(早口言葉を)しゃべったりするときに、自分の声を確認・聞こうとすると、芳しい結果にはならない。
自分の声にとらわれずに、出すものを出す・先へ進んでいこうという心構えが大事である。

もしかしてこれはあらゆることに言えるのではないかと思った。
とにかく自分であれこれブレーキをかけずに、出しきって、前へ進んでいく姿勢が大事なのではないか。出しきるってときに怖いものであるので、そう、こいつはまるで「勇気」です。

自分の声や言動にいちいちとらわれてしまうのではなく、やることをやりきって、出すものを出しきって……という姿勢が自分には必要。と、そんなことをボイトレ体験によって気づかされたのであります。

 

自分の歌唱力の限界みたいなものを意識ひとつによって引き上げられた。そして引き上げたものをサッと遮ったのは「恥ずかしい」と引いてしまった自分自身であった。

自分のリミット(限界点)となるところなんて、往々にして自分がムリだと思ってはブレーキをかけたところなのではあるまいか。と思いましたね私は。

 

また、発声練習で声量が劇的に改善したのは、がむしゃらに大声を出そうとしたからではなく、遠くの、なんなら広い教室の隣の部屋にいる誰かを想像して「届けよう」と思って出した結果だった。
「心で歌う」とはこういうことかもしれぬ、と思ったりもした。

ともあれ、意識ひとつで劇的に発声の仕方や歌唱力が変化する実体験を得たのは貴重な体験となったのであります。

 

 

当記事は、以前自分が別サイトに書いた記事の移転になります。
別サイトでの公開日:2019/10/16

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Saeka Kadomatsu
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この記事を書いた人
門松冴果

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映画と文(ぶん)が好きな物書きです。小説を書いています。

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