私が『進撃の巨人』で魅了されてる部分

進撃の巨人展_原画 本・漫画
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『進撃の巨人』が連載10周年を迎える。

私もけっこう長いこと単行本で追ってます。なぜ『進撃の巨人』に魅了されているのか。『進撃の巨人』のどこに魅了されているのか。今回書いていきます。

◇ ◇ ◇

さて、いきなり『進撃の巨人』とはちがう話から入るのですが。
テレビ番組『プレバト』の俳句コーナーが好きです。
2019年の8月1日放送回の、女優の森口瑤子さんの俳句をまずはご覧ください。

 

仏壇の 向日葵までも くたばりぬ

お題:気温35℃の「猛暑日」。
森口さんはこの春に母親を亡くされました。仏壇に向日葵を飾ったら猛暑で早々と枯れてしまったそう。「母のように早くくたばちゃったな」と、悔しい思いと愛情とを込めて俳句を作ったと説明されていました。

この句にハッとした。「くたばる」使うかと。不謹慎になりそうだけどなってなくて、むしろ味わいもキレも出ててぞくりとさせる魅力がある。すごいと思った。好きだとすぐに思いました。

俳句講師の夏井いつき先生のコメント:「こういうことを淡々と吐ける人は俳人としてのセンスがとてもあると思う」と、高評価。

こういったエッジがきいたことを「淡々と吐ける」って、勉強したからといって身につくものでもないのだろう。
センスなんだろうなあ。
なんか、空気を読まないとかじゃなく空気をこえていってるような感じ
こういうセンスを『進撃の巨人』の作者の諫山創先生からも、個人的には感じます。

 

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センス!

初心者が『進撃の巨人』の扉を開けたとき、まず、巨人が人間を食うところをバンッ!と見せつけられます。
人が人を食うカニバリズムは、海外ではひどく嫌うところもあると聞きます。
そのリスキーさをこえて世界で大人気の作品となっている。

巨人が人間をくちゃくちゃ食ってても、引きちぎられた腹から腸が出ていても、こと『進撃の巨人』に関しては、「見れる」。
残酷だけれども、「生理的にムリ」ではない。
大衆受けしてる作品だからきっと大部分の人にとって生理的にムリじゃないっぽい。
たぶん何かあんばいがちがえば気持ち悪くて本をそっと閉じられるような、そんなきわどいところを攻めていると思いますがしかし、きわどいところを攻めて結果的に多くの読者を魅了して虜にするものがあるということでしょう。凄みがある。

 

死の描き方

「淡々と吐く」という話がありましたが、『進撃の巨人』の死の描き方にも淡々としたものがあるかと思います。

戦場で命を落とすのがほどんどなので死に方は派手だったり壮絶だったりするけれど、そこに感傷的なドラマがつくことなどはほとんどない。
そして予期していなかった人物がいきなり亡くなることがある。

たとえば洋画でよくあるのは、巨大生物やサメに人間たちが襲われたときに、生きる人死ぬ人のタイプはたいてい決まってる説。
子供や女性やヒーロー的な男性はまず助かる。
中年男性はたいてい餌食になる。若めでも肥えてるエンジニア系職員や軽い感じの男性などは犠牲となる。

でも『進撃の巨人』では死にそうにない人物も犠牲になるから安心できない。
まず物語内で一番その身が安心なのはふつうは主人公であり、『進撃の巨人』ではエレンなわけだけれど、序盤でいきなりエレンが巨人に食われてしまうからびっくりしました。体の一部がもげてしまってるし。主人公なのに……って、その後の展開を知らなかった当初は完全に意表を突かれて驚かされました。

その後も容赦なく仲間たちが犠牲になっていく。私がとても意外に感じた死は、ペトラの死でした。
それこそパニック洋画作品などでは絶対に死なないようなキャラに思えてたから。
ペトラでさえも落命するのだからこりゃだれがいついなくなってしまうかもわからない。緊張感が増しました。

正義感にあふれていて読者からも親しみを持たれ始めていたであろうマルロも、あそこでああいう形で終えてしまったか……と、唐突感と無念さとがあった。

わりと活躍したキャラであればそれなりに見せ場のある最期を描きたくなりそうだけど、あっさり亡くなったりかっこいいとはいえない死に方をするキャラもけっこういた。

ときに衝撃を受ける。好きなキャラだとやるせない。けれど、人は死ぬときは死ぬってことを考えれば、淡々と死が描かれるのはある意味救いになることもあるのかなと。

ちょっと話が横にそれますが、1985年の日航機墜落事故遺体の身元確認班長をされていた刑事官の著書の中に以下の記述があります。

まるで地獄絵図のような、想像を絶したすさまじい情景は、宿命だとか運命だとかで表現し、簡単に他人の人生を総括できるようなものではなかった。
(飯塚 訓氏著『墜落遺体 御巣鷹山の日航機123便』)

日航機墜落事故の現場は凄惨さを極めていました。遺体はほとんど原形をとどめてなかったり、墜落時にとんでもない重力がかかったことによって乗客同士の身体の一部が結合してしまったり……。

地獄のような遺体現場を目の当たりにしての「宿命だとか運命だとかで表現し、簡単に他人の人生を総括できるようなものではなかった」という言葉は、そうだよなと胸に沁みました。

何も意味づけしたりせずに淡々とただ死を見る一つの慈悲、あると思います。「意味を持たない=無駄」とは思わないですし。

コメディチックな部分の描き方

死とは反対(?)のコメディチックな部分も、描かれ方が淡々というか独特というか。コメディチックなコマでのキャラの表情やリアクション、なんというか、ほかでは見たことがないような味がある。ギャグなのかシリアスなのかわからないところもある。サシャの最期の「肉」発言を受けての仲間の顔。あそこはのちにシリアスだったんだなってわかりました。フェイントきかされた。ギャグの描かれ方が独特ですが、その独特の感じが独特の世界観とマッチしてて、今ではむしろクセになってます。

性の部分の描き方

あと、『進撃の巨人』は、10年経った今でも「古い価値観だな」と思うところがないのがすごい。特に女性まわりの描き方について。

まず性的ネタ自体が見当たらないのがすごい。ノリやお約束的に描かれててもおかしくない時代にあったと思うのに無い(といって差しつかえがない)。性的なことは描かない作風だとしても、今までは男性が女性を守って当たり前・男性のほうが強くて優れてるのが自然みたいな価値観があって、この作品も自然とそんな価値観で描かれていてもおかしくなかったわけですが。

しかし『進撃の巨人』では、性差関係なく兵士になってるどころか女性のミカサが同期の中で一番強くて、ヒロイン的な存在が主人公より腕が立って、主人公(男子)を女子が守る形になる、しかもギャグ漫画や恋愛漫画ではないシリアスに戦う漫画の中で……と、きたもんだ。女性もちゃんと戦って死んだりしてるし。

たとえばこういう設定の作品が(ジェンダーフリーの狙いを少なからず持って)最近リリースされたってんならわかるんですが、10年前に(ジェンダーとかの狙いはきっとなく)もうやってるあたりの諫山先生の感性、やはりすごいと思ってしまう。

 

「センスが早い」のか。というよりは「時代に流されてないセンス」なのか?

空気読まないとかではなく空気をこえていってる感じがする、って書くのは2回目だったろうか。最近の主人公エレンのダークサイド具合にしてももうとっくに「主人公像」の規格をこえちゃってる。従来の主人公・ヒーロー像の枠におさまりきってないところがまたすごいと思うわけです。

 

 

そんな『進撃の巨人』は今や、巨人が人間を食うダークファンタジー編から移りまして、心理戦うずまく人類戦争編へと突入しました。前編(?)の知性がない巨人に襲われる「純粋」な恐怖や絶望も、後編(?)の知略まみれに戦火を交える「複雑」な恐怖や絶望も、どっちもつらいわ。

 

読者にとって、残酷、苦しい、理不尽、救いがない、というような気持ちにさせられる展開がつづいていますが、またそれが莫大なエネルギーとなって今熱く盛り上がっている。根底には、そういうのを淡々と吐ける諫山先生のセンスがあってこそなのかなと思います。

とはいえ、外側から見れば淡々と吐いてるように見えても、実際には淡々とではないのかもしれません。「賭け」や「生みの苦しみ」みたいなのも相当乗ってるのかも。いずれにしてもかなりの鋭さとか攻める感じとかも伝わってくる。

そんな作者が「何かを変えることができるのは何かを捨てることができるもの」といっているのは説得力がある。

 

という感じで私が『進撃の巨人』で魅了されてるのは「作者のセンス」という、なんだか特に目新しさもない当たり前のような答えになってしまいますが、そういうことでした。

どんなセンスかといえば、「時代の価値観にとらわれてない・エッジきいてるものを・淡々と吐ける」センスかと思います。

思えば自分は『進撃の巨人』のキャラの中ではリヴァイが好きだったし、今一番気になるキャラはピーク。人に迎合せず自分を持ってて攻めの姿勢もあってえらく淡々・ひょうひょうとした引きもあるような、なんだかそういうキャラが好きなようでして……。ああ、なんか自分はそういったセンスがツボなのかもしれないと気づかされました。

でも皆さんも、そういったセンスの人やものには「ついていきたく」ならないですかね? 私は『進撃の巨人』を読みつづけてるのは、おもしろいから、どう終結するのか気になるからってのは当然あるんですが、「ついていきたい」そんな心理もあります。

 

『進撃の巨人』、ラストまでついていきます。心臓を捧げることはできなくとも、我ら読者集団には捧げるハートがある。
10周年おめでとうございます!

 

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